Sustain Local Foods/Yuka Toguchi Hill
みなさん、食べることはお好きですか。1日の食事は3回、美味しいことはもちろん、農薬などに汚染されていない安全なものを食べたい、誰しも思うことでしょう。そんな良心親的な食材を生産・販売するお店、意外とすぐそばにあるのに知らない、あるのは知っていてもお店の営業時間に買いに行けない、そんなことはありませんか。
Good Eggsは、米国で地域密着で安全、新鮮、そして美味しいものを供給し続ける個人経営の農家や食材店が近隣都市の消費者に食材を販売するサイトです。2012にサンフランシスコとその周辺都市でパイロット版サービスを開始し、2013年2月にサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューオーリンズ、そしてブルックリンを拠点とするオンラインマーケットプレイスを開設しました。そのビジネス手法はすでにThe New York Times、Forbes、 Wall Street Journal、 Wired など多数のメディアで注目されています。
Good EggsはAlon Salant氏とRob Spiro氏、有名な米国の大企業向けにシステム開発を行ってきたシリコンバレーのスーパーエンジニア達により設立されました。バリバリと技術系の仕事をこなす一方、彼らは食べること、無添加手作りの食材やその生産・流通過程になみなみならぬ興味と喜びを感じる方々のようです。
Salant氏はかねてより地元で収穫された旬の新鮮な生産物や無添加手作りの食材などを好んで個人商店で買い求め、自身でもジャム作りに傾倒するなど、良質の食材を家族や友人たちと共に食べる喜びを常に大切にしていました。かたやSpilo氏は大学を卒業後、1年ほど友人家族が経営する有機農場で野菜や果物、鶏卵の生産に携わっており、その経験から健康な土壌から新鮮な食材を収穫する喜び、生産物を流通する難しさ、大切さを痛感したといいます。
米国ではCSA(Community Supported Agriculture, 地域密着型農業(支援))という、安全でおいしいものを食べよう、地元のビジネスや農業を消費者が支えよう、という活動が各地で行われていますが、現実の食材流通システムのインフラは円滑に機能しているとは言えません。農家や生産者はいまだ昔ながらの現金商売に頼りながら販売網を広げる手段を探しており、消費者は彼らの存在に気付かないまま「広告に踊らされず地元で良心的に生産されている食材を手に入れる方法はないものか」を模索しているというすれ違いがあります。
こんなすれ違いを目の当たりにしていた食いしん坊?のエンジニアたちが「既存のワーク・購買スタイルを変えることなく地域密着で消費者と生産者が長く良い関係を築けるようなシステムが必要」と考え、独自のオンライン食材販売システムを作り上げました。
いつでもどこからでも買い物ができるバーチャルスーパーマーケット
良心的に生産された食材を販売するECサイトは米国にもいろいろありますが、多くは肉やチーズなどアイテムが特化していたり、生協のように共同購入者が必要、また定期便形式で届くまでなにが入っているかわからないといった制約があります。しかしGood Eggs では野菜1束やジャム1瓶 など、思い立った時に好きなものだけを買えます。ある日パセリ1束を買いにふらっとスーパーに行き、気が変わって珍しいスパイスを1瓶だけ買って帰ってきた、そんな自然に近い感覚で食材を選べるのです。
販売者はそれぞれサイトにWebページを持ち、そこで写真と共にビジネスへのこだわりや商品の魅力などをアピールしていますので、それらを楽しく読みながら欲しいものを注文します。
そして受け取り方法を指定しますが、サービスエリア内への宅配は手数料一律3.99ドル、エリア内各所に設けられる受取り所に出向いて引き取るなら手数料は無料です。締め切り時間までなら受取り日の変更もオンラインで行えます。
注文は確定するとすぐ生産者に伝えられ、生産者は納期に合わせて一番食べごろの食材を収穫し、パンやパイを焼いてそれらをGood Eggsの集荷所まで配達します。あとは同社のスタッフが食材を注文別にまとめて梱包し、指定場所まで配達するのみ。
Good Eggsは食材の販売だけでなく、地元のCSA団体、シェフ、フードブロガーなどと連携して地域の食にまつわるイベント情報、ユニークなレシピや食材に関する知識などを発信するコンテンツマーケティングも積極的に行っています。また商品の受取り所に試食コーナーを設けたりサンプルや手書きの礼状を添えるなど、人の手を感じさせる交流を忘れません。1度でもスタッフと顔を合わせたり人の好意に触れると、その向こうに生産者の顔が見えたりして親近感はぐっと増すものですよね。
買えるのは厳しい審査に合格した、地元で作られた新鮮、安全、美味しい食材だけ
サービス形態からAmazon やEtsy にも例えられるGood Eggsですが、食材生産者なら誰でも自由にオンラインストアを開設できるわけではありません。登録時には厳しい審査があり、食材の品質はもとより、同社のポリシーに同意して協業できるか、食材生産者としてのビジネスの透明性などが厳しく吟味されます。具体的には「地域密着型の個人経営か」「生産者として必要な専門的知識を有しているか」「環境保全に配慮した生産や顧客志向のビジネスを営んでいるか」「関係者や使用原料を熟知し、適正な報酬やコストを払っているか」などですが、人工栽培や工業的大量生産、有害化学合成物質の使用、遺伝子組み換え型などの成長ホルモン投与、偽装などはたとえ原料や生産工程の1部分でも認められません。
そんな良心的な個人経営にこだわった食材が有機栽培の食料を売る高級スーパーより安く美味しい状態で手に入るのですから、利用者の評判が良いのはさもありなんというものでしょう。
何より、生産者にとってこのビジネスに参加する恩恵は計り知れません。既存の生産方式を維持したまま販路を拡げられることに加えて、代金の請求、回収、個別発送といった本業以外のしかし避けて通れない事務作業の負担や配送コスト、さらに受注生産により無駄な廃棄をかなり削減でき、その分、本業である生産にさらに集中できるのですから。
テクノロジーが人の生活を支えるビジネス
すべてのオペレーションが独自のシステムで管理されていることから、創始者の2人は「Good Eggsは、ソフトウェアテクノロジーの上に成り立つビジネスだ」といいます。
前出のようにこの種のビジネス、競合は少なくありません。しかし彼らは「すでに存在する、地元で誠実に働いてきた食材生産者の仕事を楽にしながら購買者と結びつけるインフラを整備する、困難があっても途中で投げ出さない」スタンスでビジネスを構築したことを他社との差別化の理由として挙げています。地域の人々の共生をサポートするという、販売以上の長期的視野に着目し、テクノロジーだからこそできる技術で彼らの生活を豊かにするサポートをしている、という確信から出た言葉でしょう。
時に新しいサービスが台頭すると、それを利用するために既存のビジネスやライフスタイルを変えなくてはいけないといった痛みが生じることがありますが、Good Eggsの周りにはそれがありません。技術が生活の中にある問題や不安を消して人々をより幸せにする、これぞハイテクの原点ではないでしょうか。
執筆者:Yuka Toguchi Hill 戸口夕香 Yuka Toguchi.
文学部3類から経済学部に転部して現在も在籍中、来年はついに(やっと)卒論"指導申し込み"に取りかかる予定。アメリカの田舎町からおもにカルチャー、E-commerce 、クラウドワーキングに関する考察をしています。