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ディズニー映画[アナと雪の女王]大ヒットの理由を分析する/ジョウゴヤスヨ

ロングセラー原作 +プリンセスという王道のマーケティング

 ウォルト・ディズニー社53作目の長編アニメ映画『アナと雪の女王』が大ヒット中である。2014年3月14日に公開されてから、約2ヶ月強の間で日本国内で『タイタニック』を越える1700万人を動員し、興行収入は、203億7千万円に達し、日本国内では、『ハリー・ポッター賢者の石』を抜いて、歴代第3位の大ヒットとなった。参考に、1位『千と千尋の神隠し』(304億円)、2位『タイタニック』(262億円)である。(1)

 映画だけではない。メイ・ジェイが歌う主題歌『ありのままに』がテレビ、ラジオ他、至る所でかかっているし、街では、小学生の少女だけでなく、若い女性の間でも、アナの編み込みヘア・スタイルが流行しているのを見かける。

 大ヒットの要因は、新しい3Dテクノロジーによる、イマジネーション豊かな映像もさることながら、アンデルセンの名作『雪の女王』という誰もが知る名作から、悪役雪の女王目線のストーリーをすくい上げ、『白雪姫』(米・1937年)から始まるディズニーのお家芸「プリンセス・ストーリー」としたところにあるだろう。

 アンデルセンの『雪の女王』に出てくる女王は、カイの心を氷のような冷たい少年に変え、ヒロイン・ゲルダを苦しめる悪役だった。その悪い女王に、自分に近付き、愛情もって触れる者を凍らせてしまう悲しみがあると、女王の視点で『雪の女王』を語り直している点で、実に文学的である。なぜ今、ディズニーは、悪役目線のプリンセス・ストーリーを製作したのだろうか。

優等生のプリンセスより、人間味あふれる悪女

 近年、ハリウッド映画には、名作の悪役をヒロインに据えたリメイク作品が少なくない。

 『101匹わんちゃん』の魔女クルエラをヒロインにリメイクした『101』(米・1996年)をはじめ、ジュリア・ロバーツが白雪姫の継母の女王を演じた『白雪姫と鏡の女王』(米・2012年)、そして、この夏は、アンジェリーナ・ジョリーが『眠れる森の美女』の魔女を演じた『マレフィセント』が公開5週目で興行収入50億円を超えるヒット中だ。(2)

 ここでは、『アナと雪の女王』に類似する『白雪姫』、『シンデレラ』、『眠れる森の美女』などに代表されるプリンセス・ストーリーの原作を読み直してみよう。

 白雪姫は、継母の女王の陰謀で森に捨てられるが、七人の小人たちに助けられ、毒りんごを食べて一度は死んだものの、王子が登場して、キスで生き返る。シンデレラは、義理の母親と二人の姉に苛められるが、魔法使いによって、舞踏会に行き、ガラスの靴を手がかりに王子に見つけられ、ハッピーエンドである。『眠れる森の美女』に至っては、高い塔に幽閉されて、眠ったまま王子のくちづけを待っているだけである。プリンセスは、常に周りの人たちの力で助けられ、自分では行動を起さない。

 一方、悪女たちは、孤軍奮闘である。誰一人協力者がいなくても美貌や権力を手に入れようとあらゆる手を尽くす。失敗しても次々と策を練り、へこたれない。実にアクティブである。

 自分では行動を起さず、周囲に助けられる女性は、同性から嫌われる典型的タイプである。反面、成功するまで諦めない、たくましい女性は、同性から支持され、会社や学校でも人気があるのではないだろうか。現代は、花嫁志望の腰掛OLのようなプリンセスより、仕事に目標を持つキャリア・ウーマン型、悪役の女王が女性に支持される時代なのである。クルエラや鏡の女王が愛すべきヒロインとして生まれ変わったのは、そのためだろう。

プリンセスの自立

 しかし、活躍するのがプリンセスではいけないのだろうか?ディズニー・アニメのプリンセスも1937年公開の『白雪姫』から時代が変わり、『リトル・マーメイド』(米・1989年)、『美女と野獣』(米・1991年)、『アラジン』(米・1992年)になると、自分で生きる道を切り開こうとする自立したプリンセスが描かれるようになった。王子に助けられながら、しかし、自分からの意思で、「広い世界を見たい」と願う実写映画でも、『ワーキング・ガール』(米・1988年)が公開された頃である。ディズニー・アニメも新しくなった感があった。

 『シンデレラ』を実写映画化した、『エヴァー・アフター』(1998年)では、継母と意地悪な姉二人にいじめられても泣いているだけではないシンデレラが描かれていた。道で出会った王子を担いで歩くような、力持ちのプリンセスである。しかし、興行的にはヒットしなかった。王子に助けられるどころか、担いでしまう、男を必要としないプリンセスは、プリンセスではないのだ。

 『アナと雪の女王』は、2人のプリンセスの物語である。触れる物を凍らせてしまう姉エルサは、自分の運命を恨み、氷の城に閉じこもってしまう、孤独なプリンセスである。妹、アナは、姉を信じて、助けに向かう、自分で行動を起すプリンセスだ。しかし、その行動力は、出会ったその場で婚約したハンス王子と氷業者のクリストフという二人の男性に支えられている。

 悲しみを抱えた人間臭い女王エルサ、そして王子の力添えで自立するアナ。カイとゲルダの視点で見たら、夏を真冬に変える魔力を持った恐ろしい姉妹になるだろう。アナとエルサはプリンセスという名を持つ悪女なのだ。

『アナと雪の女王』大ヒットは、悪女をプリンセスに仕上げた所に勝因があるのだ。

執筆者:城後安代 Jogo Yasuyo

文学部3類。卒論テーマは『赤毛のアン』とお茶会文化。紅茶の英米文学を研究しています。紅茶、日本茶を語ると止まらなくなります。モンゴメリとジャポニズムの関係にも注目しています。

【参考資料】

ディズニー映画『アナと雪の女王』

http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/anayuki

『アナと雪の女王』MovieNEX 予告編

© Disney. All Rights reserved.

(1)MSN産経ニュース(2014年5月30日)

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140530/ent14053019360020-n1.htm

(2)海外ドラマNAVI

http://dramanavi.net/news/2014/08/50-12.php

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